
リーダーになったばかりのあなたへ。
「この技術選定は本当に正しいのだろうか」「このスケジュールで進めて大丈夫か」
プレイヤー時代にはなかった、「判断の根拠がない」という不安に直面していませんか?
ITエンジニアは論理とエビデンスを重んじますが、新任リーダーの役割は、「不確実な情報の中で、最も未来につながる決断を下すこと」です。
本記事では、経験不足や自信のなさから来る「根拠がない」という悩みを解消するため、実務者目線で使える意思決定のプロセス構築術を解説します。
完璧な正解ではなく、「納得感と次に活かせる構造」を持つ判断軸を一緒に作り上げましょう。
新任リーダーがまず理解すべきは、リーダーの判断における「根拠」の定義が、個人完結型の業務とは異なる点です。
プレイヤーにとっての根拠は、「Aという技術が最も速いから」といった技術的な最適解や、「仕様に完全に合致しているか」という客観的な指標に強く依拠していたかもしれません。しかし、リーダーにとっての根拠は、「完璧な正解」ではなく、「チームとビジネス全体のリスクを許容した上での、最も前進できる最善手」です。
あなたの決断の根拠は、以下の3つの要素が複雑に絡み合った結果として生まれます。
「根拠がない」と感じるのは、この3要素を言語化し、チーム内で共有する判断軸として明確にできていないだけかもしれません。
中堅エンジニアからリーダーへと役割が変わると、判断の迷いは必然的に増えます。これはあなたの能力の問題ではなく、役割の構造的な変化によるものです。
プレイヤーは「自分のタスク」の最適化を求められますが、リーダーは「システム全体」や「チームの未来」を考慮する必要があります。
特に、技術的負債の解消は、新任リーダーが直面する最も重い課題です。短期的なビジネスの要求(スピード)と、長期的なシステムの健全性(負債解消)という、相反する要素のバランスを取るという、非常に難易度の高い判断が常に求められます。
多くのエンジニアは、論理的思考と「絶対的な正しさ」の追求に長けています。しかし、現実のビジネス環境では、情報が7割程度しか揃っていない状態で、時間制限の中で判断を下す必要があります。
「データがないから決められない」という論理的な姿勢は、リーダーとしては意思決定の停滞につながり、組織に機会損失を与えてしまうジレンマが生じます。
技術的な判断だけでなく、ビジネスサイド、他部門、チームメンバーなど、意見を聞くべきステークホルダー(利害関係者)が一気に増えます。
全員を納得させる「完璧な根拠」は存在せず、調整コスト(コミュニケーションの負荷)が増えることで、判断そのものに疲弊し、自信を失いやすくなります。
「根拠がない」状態から脱却するためには、属人的な経験則ではなく、再現性の高いプロセスを意識的に構築することが不可欠です。
判断の根拠の7割は、「そもそも何のために決めるのか」という目的に依存します。
その技術選択は、システムが将来的に負うコストを最小化しますか?「今楽だから」ではなく、「3年後に発生するコスト」を最小化するという視点で技術的な判断軸を定めます。
その判断は、Time To Market (TTM)(市場投入までの時間)を最優先にしますか?それとも、Return On Investment (ROI)(投資対効果)を重視しますか?この優先順位を関係者と握ることが、判断の軸になります。
メンバーから上がってくる情報は、「意見(主観)」と「事実(ファクト)」が混在しています。根拠の質を高めるには、検証を通してこれらを分離する必要があります。
「私はA案が良いと思います」という意見に対し、「なぜその意見に至ったか?」「A案を採用しなかった場合の具体的な損失は何か?」と、判断の根拠の根拠を深堀りします。感情論を排除し、判断材料を客観的なデータ(例:ベンチマーク結果、過去の障害事例など)に引き上げます。
意思決定はプロセスの中間点です。リーダーの役割は、判断の結果責任を負うこと。失敗してもすぐに立て直せるよう、決定と同時にリカバリーの計画を立てます。
この「次のアクション」までセットにすることで、判断の「正しさ」ではなく「健全さ」が証明されます。
パレートの法則(80:20の法則)は、「リソースの8割は2割の作業で決まる」と解釈されがちです。しかし、リーダーシップにおいては、「判断の80%は現場に委任し、残りの20%の重大な判断に集中する」と解釈すべきです。
全ての判断を自分で抱え込むと、重要な20%の意思決定の質が落ちます。メンバーへの権限委譲こそが、リーダー自身の判断を研ぎ澄ますための必須スキルです。
意思決定の根拠は、提示する相手によって見せ方を変える必要があります。
技術的な「正しさ」を根拠とするのではなく、相手が求める価値観に変換した「説得力」を根拠として提示しましょう。
新任リーダーとしてキャリアの壁に直面する際、女性エンジニアは特有の文脈で意思決定の課題を抱えやすいことが、様々な調査から示唆されています。
多くの女性エンジニアは、チームの調和を重視し、「共感ベース」でメンバーの意見を引き出すコミュニケーション能力に長けています。しかし、このアプローチが、リーダーとしての最終判断の場面で「感情に流されている」「論理的な根拠が弱い」と誤解されるリスクがあります。
これは、意思決定のプロセスにおいて「共感」が「論理」よりも下に位置付けられがちな、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)によるものです。
対策: メンバーの意見を聞き入れるプロセスをオープンにしつつ、最終的な判断を下す際には、必ず客観的なデータを示しましょう。「皆の意見は聞いた上で、事実に基づきこの道を選ぶ」という構造を意識することが重要です。
「経験が足りないから、自分の判断に根拠がない」と感じることは、特に女性リーダーに多く見られる傾向です。しかし、これは「自信のなさ」ではなく、「多角的な視点からリスクを検討する慎重さ」という、リーダーとして極めて優秀な特性の裏返しであると捉え直してください。
あなたの「慎重さ」を活かし、Step2にも記述した通り、事実と意見を分離した上で、判断の根拠の根拠を深掘りし、客観的なデータに引き上げることが、論理的な根拠を強化する最良の方法となります。
Q1:経験がない技術分野で判断を求められたらどうすればいい?
A:判断を下す必要はありません。その分野の専門家(メンバーや外部の技術者)に「意思決定を委任する」という判断を下すのがリーダーの仕事です。その際、あなたが決めるべきは「委任の範囲」と「期待する成果」であり、技術的な詳細ではありません。
Q2:自分の判断が原因で失敗してしまった時のリカバリー方法は?
A:失敗は必然です。リカバリーの鍵は「失敗の事実を速やかに認めること」と、「判断の根拠をレビューすること」です。失敗を個人の責任にするのではなく、プロセスを改善しましょう。
Q3:チームメンバーの意見が対立して、根拠が2つに分かれた場合の決め手は?
A:対立する根拠を、必ずStep 1で定めた「判断の目的(技術的か、ビジネス的か)」に立ち返って評価します。最終的な判断は、どちらの根拠が目的達成に貢献するか、という上位の軸に従って下すのが原則です。
新任ITエンジニアリーダーのあなたが持つべき「判断の根拠」は、完璧な正しさではなく、「明確な目的」と「計算された不確実性」によって裏付けられた、最も前進できる選択肢です。
「根拠がない」という不安は、リーダーとしての成長の証。今日から「意思決定のプロセス」を意識的に構築し、そのプロセスそのものを自信と根拠に変えていきましょう。
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