経験の棚卸しは、転職を決めてから慌てて取り組むものと思われがちですが、実は急いでいない時期のほうが落ち着いて自分の強みを見つけられます。この記事では、職務名ではなく「仕事の場面」から経験を書き出し、AIが身近になった時代にも生きる力へと読み替える手順を紹介します。まずは今週の仕事から3つの場面を書き出す、15分の小さな一歩から始めてみませんか。
転職活動が始まると、職務経歴書の締め切りや面接の日程に追われ、「どう書けば評価されるか」という視点で経験を整理しがちです。もちろんそれも大切ですが、見せ方を先に考えると、自分では当たり前だと思っている工夫や、数字に表れにくい役割がこぼれ落ちてしまうことがあります。
今すぐ転職を考えていない時期は、誰かに見せる前提をいったん外して、自分の仕事をそのまま見つめ直せる貴重なタイミングです。記憶が新しいうちに書き留めておけば、いざ動きたくなったときにも、今の職場でキャリアの相談をするときにも、手元の材料として役立ちます。
棚卸しは「辞めるための準備」ではなく、「自分の仕事を自分の言葉で説明できるようにする習慣」と考えると、気負わずに始められます。
棚卸しというと、担当したプロジェクトや役職を年表のように並べるイメージがあるかもしれません。ただ、肩書きや業務名だけでは、あなたが実際に何を考え、どう動いたのかは見えてきません。
おすすめは、仕事の「場面」を一つずつ書き出す方法です。たとえば、次の4つを短く書いてみてください。
・どんな状況だったか(誰が、何に困っていたか)
・自分は何をしたか
・どう工夫したか、何を判断したか
・その結果、何が変わったか
大きな成果である必要はありません。会議の資料を見やすく作り直した、問い合わせ対応の手順をまとめて引き継ぎを楽にした、部署間の認識のずれに気づいて調整した。こうした日々の場面にこそ、その人ならではの力が表れます。
AIが文章作成や情報整理を手伝ってくれるようになった今、仕事の中で人が担う部分は少しずつ変わってきています。その中でも、どんな職種でも生きやすい力として、次のようなものが挙げられます。
・課題を言葉にする力:何に困っているのかを整理し、問いの形にする
・判断する力:情報や選択肢を比べ、状況に合った答えを選ぶ
・つなぐ力:立場の違う人の間に立ち、話を前に進める
・仕組みにする力:繰り返す作業を手順やルールに整える
・新しい道具を試す力:AIを含むツールを業務に取り入れ、使い方を工夫する
先ほど書き出した場面を見返し、それぞれがどの力に当てはまりそうか、メモを添えてみてください。「問い合わせ対応の手順をまとめた」は仕組みにする力、「部署間の調整」はつなぐ力、というように読み替えると、エンジニアでも人事や営業、マーケティングの仕事でも、ITやAIと組み合わせて生かせる強みが見えてきます。
AIツールをすでに業務で使っている人は、「何に使い、どう工夫したか」もぜひ一つの場面として書き残しておきましょう。小さな試行錯誤も、立派な経験です。
いきなり社会人になってからの経験をすべて振り返ろうとすると、途中で手が止まってしまいます。最初は範囲をぐっと絞って、今週の仕事から3つの場面を選び、先ほどの4項目で書き出すところから始めてみてください。15分ほどあれば十分です。
書く場所は、スマートフォンのメモでも手帳でも構いません。学生の方なら、アルバイトやゼミ、サークルでの場面でも同じように書き出せます。
書き出したら、それぞれに「どの力に当てはまりそうか」を一言添えます。迷ったら空欄のままで大丈夫です。あとで見返したとき、別の角度から意味づけできることもあります。
棚卸しは完成させるものではなく、少しずつ書き足していくものです。月に一度、気になった場面を数個追加するだけでも、半年後には自分の仕事の傾向や、得意なことの輪郭がはっきりしてきます。
そして、自分では気づきにくい強みもあります。書き出した場面を誰かに話してみると、「それは十分に評価される経験ですよ」と言われて初めて価値に気づくことも少なくありません。一人ひとりの経験が公平に評価される場所はどこなのか、考えるきっかけにもなります。
今すぐ答えを出す必要はありません。まずは、自分の仕事を自分の言葉で残すことから始めてみてください。
今週のどこかで15分だけ時間をとって、仕事の場面を3つ書き出してみてください。その小さなメモが、これからのキャリアを考えるときの確かな手がかりになります。